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技術情報

No.05(2006.8)

人工透析治療におけるエンドトキシン測定の展開(1)

金成泰氏写真

レメディ北九州ネフロクリニック
理事長・腎センター所長兼務
金成泰
Kim Sung-Teh,M.D.

注射製剤の微生物学的な安全性評価において、ウサギ発熱試験に代わる簡便かつ高感度な検出方法として市民権を得たリムルス試験は、1992年頃より透析医療業界においても応用が始まった。腎不全患者に施行される血液透析治療は、血液を半透膜(透析膜)の一側に流し、半透膜を隔てた反対側に大量の電解質液(人工透析液、単に透析液と呼ぶことが多い)を逆方向に流すことにより、血液に蓄積した毒素を透析で取り除くものである。血液透析膜はその細孔特性から、分子量数千から数万ダルトンの粒子までは透過させるので、透析液が細菌に汚染されていると、菌体の破砕成分であるエンドトキシンが膜を逆透過して血液に侵入してしまう危険が発生する。1990年代は透析膜が急速に進化し、膜の細孔径が拡大していった時期である。膜の大孔径化に応じてエンドトキシンの透過性は増大するので、エンドトキシンへの関心が高まっていったのも当然といえる。

透析液を汚染する細菌の種類を調べると、大半は水道水に由来する水生細菌であり、グラム陰性桿菌(Pseudomonas属、Acinetobacter属、Acromobacter属)であった。透析液中のエンドトキシンの由来には2通りあり、水道水あるいはこれを活性炭吸着処理した原水に当初から含まれていたエンドトキシン(1次汚染)が水処理工程の下流にリークしてきたもの、および下流の配管系内部で増殖した水生菌(2次汚染)が破砕して遊離されてきたものである。2次汚染の原因となる水生菌も、もとはといえば上流からリークしてきたものである。したがって、透析液エンドトキシンの測定は、単に発熱性の評価としての価値のみでなく、透析液の全般的な細菌汚染の程度を知るスクリーニング指標としても有用である。

治療に用いる透析液は市販の電解質濃縮液を各施設において水道水を浄化して得られた透析用水で希釈して調製される。多段階の水処理工程における一般的なエンドトキシンレベルの推移を図に示す。水道水のエンドトキシンレベルは地域差が大きく、地下水は水道水にくらべて低値を示す傾向がある。また、軟水化処理では、エンドトキシンレベルはほとんど変化しないが、活性炭処理水では数十%の濃度上昇が認められる。これは活性炭処理により浄水場で添加された塩素種の濃度が低くなり細菌増殖抑制効果が消失してしまうためである。透析用水は逆浸透ワンステップ処理によって作られるので、通常、負荷水中のエンドトキシンや細菌の除去が不完全である(低減率は10-2~10-4程度)。逆浸透モジュールの構造上の問題から、パイプの接続不全部分や膜のシール不全部分からわずかではあるが汚染された負荷水がそのまま通過してしまうことが関与している。よって透析用水は、負荷水の濃度と阻止性能で規定されるエンドトキシン濃度を示す。細菌自体がリークしている場合は、細菌が下流で増殖すると共にエンドトキシン濃度を上昇させる。透析用水として使用される逆浸透水中のエンドトキシン活性は透析液調製時に濃縮液成分の作用による失活や分散状態の変化により60~70%に低下する。いずれにしても透析液のエンドトキシンレベルは透析用水の水質の影響が大きい。また、その後の原液タンクや調製装置、配管の管理が不適切である場合もエンドトキシンレベルの上昇をきたす(文献1)。

1992年はオンライン血液透析濾過(HDF)という新しい手法が日本で臨床応用された年でもあった。血液濾過とは膜両側の圧力較差により血液から濾液を除去し、同量の電解質液を補充する手法で血液透析とは除去原理が異なる。血液透析濾過は両者のハイブリッドである。さらに、オンラインHDFでは、濾過を補充する置換液として無菌的かつ無エンドトキシン的に調製された透析液を注射用製剤の代用とする。しかも、投与される量が20~150Lと通常の注射用製剤よりもけた外れに多い。このため、安全性を担保する観点から、オンラインHDFを実施する施設では当初より超高感度のリムルス試薬を要望していた。エンドトキシン特異的な合成基質法キットはこうした需要を満足できるリムルス試薬であり(文献2)、やがて透析業界における標準キットとして広がり今日に至っている。透析液のような電解質液に溶存するエンドトキシンを測定する際には、エンドトキシンの容器への吸着による見かけ上の測定値の低下、分解による失活、会合状態の変化による活性の変化などの現象に習熟しておく必要がある。また、キットの感度が鋭敏であるため採取時のコンタミネーションにも注意が必要である。その他の一般的留意点として、サンプリングは少量よりも大量の方がよい。サンプリング後は直ちに測定することが推奨されるが、そうでない場合は安定化剤入り専用容器での保存が必要である。

  • 図1

文献

  1. 金成泰ら:実践的アプローチ-透析液水質管理&オンラインHDF. p64-67メディカルレビュー社
  2. C. Yamamoto et al.: Validation of limulus tests for endotoxin evaluation in dialysate. Nephrology 1996; 2:429-434
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