No.17(2016.11)
透析アミロイドーシス新規発症に寄与する透析液エンドトキシンの影響
虎の門病院 腎センター内科
川田 真宏
Masahiro KAWADA, M.D.
虎の門病院 腎センター内科
虎の門病院分院 腎センター内科
医長 星野 純一
Junichi HOSHINO, M.D., M.P.H., Ph.D.
透析アミロイドーシス(HDA)とは、β2ミクログロブリン(β2MG)を前駆蛋白とする全身性アミロイドーシスであり、
長期透析患者に認められる代表的な合併症の1つである。β2MG由来のアミロイド線維は骨関節領域に沈着しやすい傾向があり、
骨嚢胞やアミロイド関節症、破壊性脊椎関節など様々な骨・関節障害を引き起こすことが知られており、
中でも高頻度に合併する手根管症候群(CTS)はHDAの代表的な症候の1つである1)。
β2MGは多くの有核細胞で産生される11,800kDaの低分子蛋白であり、長期透析患者ではβ2MGの腎排泄低下や慢性炎症に伴う産生亢進により血中濃度が増加し、
腎不全患者では20~80mg/Lと健常人の約20~50倍まで上昇している。こうした血中β2MG高値の持続及び長期間曝露による組織へのβ2MG 蓄積はHDAの発症の必要条件と考えられるが、
横断研究では、血中β2MG濃度は直接的にはHDA発症に相関しないことが報告されている2)。
そのため、ここに何かしらの発症促進因子が加わることで初めてβ2MGがアミロイド化されると考えられている。
これまでの報告では、HDAの発症促進因子として、透析歴、透析導入時年齢、アポリポ蛋白E4遺伝子、最終糖化産物(AGEs)、
慢性炎症、酸化ストレスなどが報告されている3), 4), 5), 6)。しかし透析歴や年齢、遺伝的素因などは回避することはできないため、
以前より慢性炎症や酸化ストレスを軽減するため透析膜や透析液の改良が行われてきた。
1994年Bazらにより透析液エンドトキシン濃度の低下によるCTS発症率が報告され7)、
それを契機に、よりピュアな透析液の開発が進められてきた。Bazらの報告以降、追随するように透析液の清浄化、
すなわち透析液エンドトシキン濃度の低下がHDAの新規発症を抑制する可能性がいくつか報告されるようになり、
近年では微細なレベルのエンドトキシン汚染や細菌DNAなどの超微粒子汚染でも生体に炎症反応を惹起しうることが知られている8)。
つまり“エンドトキシンフリーの透析液”の使用がHDA新規発症抑制の面から必要とされているということである。
現在の透析液浄化技術ではエンドトキシン補足フィルタ(ETRF)を装着することで理論上、
本邦全ての透析施設で超純粋透析液(透析液エンドトキシン濃度0.001EU/mL未満(測定感度未満)かつ透析液細菌数0.1cfu/mL未満)を達成することが可能とされており、
2008年の透析医学会から発表された「透析液水質基準と血液浄化器性能評価基準2008」では全ての透析方法において超純粋透析液の使用が推奨されている9)。
実際、2014年の透析医学会からの報告では、透析液エンドトキシン濃度は経年的に低下しており、
2014年末において超純粋透析液を担保する0.001EU/mL未満の施設は77.6%、標準透析液を担保する0.05EU/mL未満を達成している施設は96.2%と
“エンドトキシンフリーの透析液”を用いる施設は劇的に増加している(図)10)。
しかし、実際これらの技術進歩がHDAの新規発症をどの程度減少させたかは明らかではなく、 過去に少数例の報告があるのみであった。近年、透析医学会統計調査委員会によりHDAの新規発症が時代の推移でどのように変化したかが疫学的に検証された11)。 対象は1998年及び2010年末に本邦で維持透析を施行中の患者のうち、CTSがない症例(腎移植歴を有する症例、腹膜透析施行例、 β2MG吸着カラム使用例、一時透析例、CTSの情報欠落例を除く)とし、1年以内のCTS発症を従属変数、観察開始時(1998年または2010年) の年齢、透析歴、BMI、腎原疾患、透析方法(HD/HDF)、アルブミン、クレアチニン、ヘモグロビン、CRP、透析効率(Kt/V)、 栄養状態(PCR)、透析前後でのβ2MG除去率及び変化量を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った。その結果、 2010年コホートにおける1年後の新規CTS発生率は1998年に比べ有意に減少しており(1.30% vs1.77% , p<0.001)、 透析歴5年ごとのCTS粗発生率は、2010年コホートでは1998年に比べて約5年間発症が遅くなっており、 上記諸因子で補正した後のオッズ比も同様な傾向を示した(図)12)。 このことから透析技術の進歩によりCTS新規発症が減少していることが明らかとなった。エンドトキシンフリーの透析液に寄与する影響はどの程度かは定かではないが、 これまでの論述からHDA新規発症抑制への寄与は大きいことは明らかである。
文献
- 山本卓, 下条文武. アミロイドーシスの基礎と臨床(池田修一編集, 石原得博監修), 金原出版, 東京, 2005, pp179-185.
- Gejyo F, Homma N, Suzuki Y, et al. Serum levels of β2-microglobulin as a new form of amyloid protein in patients undergoing long-term hemodialysis. N. Engl. J. Med. 1986; 314: 585-586.
- Drueke TB. β2-microglobulin and amyloidosis. Nephrol. Dial. Transplant. 2000; 15(Suppl 1): 17-24.
- Cruz DN, de Cal M, et al. Oxidative stress and anemia in chronic hemodialysis: the promise of bioreactive membranes. Contrib. Nephrol.. 2008; 161: 89-98.
- Gejyo F, Suzuki S, Kimura H, et al. Increased risk of dialysis related amyloidosis in the patients with apoprotein E4 allele, Amyloid. Int. J. Exp. Clin. Invest. 1997; 4: 13-17.
- Kuchle C, Fricke H, et al. High-flux hemodialysis postpones clinical manifestation of dialysis-related amyloidosis. Am. J. Nephrol. 1996; 16: 484-488.
- Baz M, Durand C, et al. Using ultrapure water in hemodialysis delays carpal tunnel syndrome. Int. J. Artif. Organs. 1991; 14: 681-685.
- Schindler R, Beck W, Deppisch R, et al. Short bacterial DNA fragments: detection in dialysate and induction of cytokines. J. Am. Soc. Nephrol. 2004; 15: 3207-3214.
- 秋葉隆, 川西秀樹, 峰島三千男ら. 透析液水質基準と血液浄化器性能評価基準2008. 透析会誌. 2008; 41: 159-167.
- 政金生人編:(5)水質管理状況の推移①. 図説わが国の慢性透析療法の現況 2014年12 月31 日現在. 東京.(社)日本透析医学会統計調査委員会. 2015, p34.
- Hoshino J, Yamagata K, Nishi S, et al. Significance of the decreased risk of dialysis-related amyloidosis now proven by results from Japanese nationwide surveys in 1998 and 2010. Nephrol. Dial. Transplant. 2016; 31: 595-602.
- 政金生人編:(9)透析アミロイドーシス新規発症と時代の推移. 図説わが国の慢性透析療法の現況 2014年12 月31 日現在. 東京.(社)日本透析医学会統計調査委員会. 2015, p60.
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